File#03 数井浩子 

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「無我夢中の才能」を大切に

心理学の話に戻りますが、アニメーターのようにクリエイティブな仕事をしている中で‥心理学に興味のある人は多いと思うので、おすすめの心理学の本や読んで面白かった本などありましたら、紹介していただけますか?

K)心理学の本やおすすめの本はたくさんあるのですが、今回は、『ミミズと土』(チャールズ・ダーウィン著,平凡社ライブラリー)をご紹介したいと思います。ダーウィンといえば、『種の起源』が有名ですが、彼が最後に書いた本が『ミミズと土』なんです。彼は40年間、ミミズを「観察」「分析」「考察」し続けて、ミミズが地球の土壌を循環させ、肥沃にしていることをこの本で明らかにするのですが、単なる生物学を超えた学際研究の集大成本なんです。初版は1881年なので、約140年前の本です。

でも、40年間もミミズの観察を……? 面白いですね。

K)ミミズって身近でちいさな生き物ですよね。そのミミズが、地球の土壌(肥沃土)をどうやって作り続けてきたか、という…かなり地味でマニアックな研究です。マニアックすぎてちょっと引くかも知れませんが、たとえば、「ミミズはどの三角形の紙を巣に引き込むのか」を観察した章では、ミミズの巣のまわりに形の違う三角形の紙をばらまいて、とにかくひたすら毎日、観察するんです。

ミミズはちょっと苦手で敬遠していましたが…人知れず働いているお話を聞くと、共鳴してしまいます。
「ひたすら毎日~」というところは、アニメーターと共通するところもありそうですね(笑)

K)たしかに、アニメーターもひたすら毎日、なにかしら描き続けていますよね。地道でマニアックなところは共通点ですかね(笑)。基本的には、研究もアニメつくりも、ある日突然ひらめくことってあまりなくて、うんうん唸りながら毎日やっていて、ちょっと苦しくて、それでもやり続けていて、で、あるとき、何かのきっかけで「種」みたいなものがポコッと出てくるような……そんな感じがします。

どんな仕事でも、「続けること」は大切ですよね。特に技術を積み上げていくような仕事なら10年くらいは‥

K)でも、ツライことを「続けること」は誰でもイヤなので(笑)、自分が好きなことを続けるのが一番いいことだと思います。実は数年前、ある大手出版社の企画会議でOKが出て、出版する予定だった本があるんです。そのタイトルが『無我夢中の才能』というんですけど、ダーウィン(のような生物学者)もアニメーターも、一番必要な才能は「夢中になって、遊ぶように仕事を続ける才能」なのかな、と思ったりします。

『無我夢中の才能』……。それは、読んでみたいですね!なんなら、「アニメ化」を希望します(笑)
それでは最後に、特に若い世代の皆さんに向けて、メッセージなどをいただけたらと思います。

K)「とにかく気になることがあったら、やってみること」「そのなかで好きなことを3つ探すこと」でしょうか。今は情報も豊富ですし、SNSでもいろんな意見があって迷うじゃないですか。でも、まずは動いてみるといいと思いますよ。そして、好きなことがひとつだと挫折したときに悲しくなるので、あと2つ、試してみる。そして、とにかく楽しんで「遊ぶように仕事を続けること」。理想を語ってしまったかも知れませんが、人には理想が必要なときもあると思うので、そういうときに思い出していただけると嬉しいですね。
みなさんといつかどこかで、お目にかかれる日を楽しみにしています!

~たくさんの貴重なお話し、ありがとうございました!!